陶磁器の色いろ
赤編:ベースカラー

update:2019/04/08

陶磁器の赤について書きましょう。
といっても、現在では科学的にも技術が発展していますから、陶芸用に多彩な色が発売されているのはご存じのとおり。
ですから、ここで書くのは「伝統」の赤です。

まずは、ベースカラー、つまり器全体に赤を用いた陶磁器をあげていきましょう。

◎楽焼の赤楽

長次郎にはじまり、現在は15代楽吉左衞門が継承している「楽茶碗」のうち、赤色の楽茶碗を「赤楽(あからく)」と呼びます。
赤は鉄を含んだ土を酸化させることで発色しますので、赤楽の場合も、鉄を含んだ土を素地に塗ったものが基本。さらには、白の素地に黄土を塗った上で鉄砂釉をかけた、より鮮やかな赤楽もあります。
赤楽は長次郎(天正時代頃)には既に焼かれていて、重要文化財となっている〈太郎坊〉や〈無一物〉などは特に有名。さらに3代道入(通称:ノンコウ)の〈鵺〉も赤楽の名品として、こちらも重要文化財に指定されていますね。

◎おまけ:飴釉・柿釉

こちらは、赤というより茶褐色なので、本稿にはふさわしいかどうか迷うところですが、益子焼などの民芸系のやきものに作例に多く見られます。鉄を含んだ釉薬を酸化焼成することで赤色系に発色。飴釉で有名なのは、楽焼の系統である大樋焼ですね。

◎丹波焼に赤土部

兵庫県丹波篠山市にある六古窯の一つの丹波焼。数多くの技法を用いるやきものなのですが、その中に「赤土部(あかどべ)」というのがあります。ちなみに土部(ドベ)とは、水で溶いた泥のことで、例えばマグカップの取っ手をくっつけたり、成形後に感想してヒビがはいったときに塗り込んだりと、要するに接着材のように使うもの。丹波焼でも、甕などに、水漏れを防ぐ目的で塗られたようですが、それが朱赤に発色するため、江戸時代初期の丹波焼を代表する技法として知られるようになりました。しかしながら、やがて赤土部は廃れていったようで、現代になって様々な再現が試みられています。

◎血のような辰砂

上述の赤は、朱や褐色のほうがイメージに合うと思いますが、血のように鮮やかな赤もあります。それが「辰砂釉(しんしゃゆう)」です。赤楽や赤土部が酸化鉄を発色させたのに対し、こちらは酸化銅。鉄に比べて扱いが難しく、思い通りの赤を出すには、高い技術力が必要だと言われています。
日本ではさまざまな赤を辰砂とひとまとめで読んでいますが、中国では、桃花紅をはじめとして、鮮紅、火焔紅など、さまざまな紅釉がありました。主に宋代以降で、中でも桃花紅は特に難しかったらしく、現存する作品数も少ない幻のやきものです。
一方の日本では、辰砂とひとまとめで言うことからも想像できると思いますが、中国に比べて赤の技術は多彩な発展は見せていません。難しかったからでしょうか。辰砂で真っ先に思い起こされるのが、近代の巨匠・河井寛次郎でしょう。

◎傍流の赤志野・紅志野

あえて傍流という言葉を使ったのは、志野焼というのは一般的には「白のやきもの」だから。上述の楽焼のように、赤楽・黒楽と二分されるような感覚とはちょっと違うと思います。
しかしながら、うっすら朱色の発色した志野焼のイメージを持っている人は多いかもしれませんので、末尾に振れておきましょう。
志野焼は、基本は白のもぐさ土を素地に、長石を用いた白秞を掛けたやきものです。ですから、白のやきものというわけですね。その応用として、もぐさ土の素地に鉄を含んだ土で化粧を施し、さらに薄く長石釉を掛けたものが赤志野。近代の巨匠・荒川豊蔵の登場により、この「赤」にさまざまな色が作られるようになりました。現在ではオレンジ系、ピンク系などの赤志野・紅志野もあります。

さて、今回はベース、器本体に赤を使った陶磁器を紹介しました。
次回は器に描く赤をご紹介する予定です。

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(2019年初出、2023年加筆修正)