陶磁器の色いろ
モノトーン編:陶器の黒(1)

update:2019/03/04

陶磁器の「黒」……なんだか、モダンなイメージがありますか?
しかし「黒という意匠」は古くから試みられてきました。今も昔も、粋なイメージが黒ですね。

ちなみに、前回の白については、「磁器」から話を始めましたが、今回の黒は「陶器」がメインです。というか、基本的に黒い磁器、いわゆる黒磁はあまり作られていないのです。

そもそも、磁器というのは、素地を精製し、限りなく「純白」を求め、ついには透光性があり、硬く、薄く、美しいフォルムの磁胎を実現していった歴史があります。やきものにおいて白磁は高度な技術の粋を集めたものであって、憧れの器でした。

その一方で黒は…実は土器の時代からあります。そして、磁器を求める過程で陶器に白秞を掛けたように、陶器に黒秞を掛けたものは容易に登場しますが、そこから磁胎そのものを黒にしようという必要はなかったのです。
ですから、黒の陶器は早くから各地で存在に、その意匠は様々にありますが、基本は陶器ということになります。

では、代表的な「陶器の黒」をご紹介していきましょう。まずは古代文明まで遡りまます。

◎ギリシャの黒像式陶器・赤像式陶器

黒のやきものということなら、一番にこれをイメージする人もいるのではないでしょうか?
古代ギリシアの黒い壺。黒地にギリシア神話の世界が描かれたものです。
その技法を簡単に書くと、黒は鉄分を含んだ化粧土を還元焼成した色、赤は化粧土が酸化焼成した色です。つまり、酸化と還元を使い分けて複数回焼成して作られていた高度なやきものであることがわかります。
さらに技術的には、描き方の違いで「黒像式陶器」と「赤像式陶器」の2種類に分類されます(ここでは難しすぎるので専門的な違いの説明は割愛)。黒像式が先で初期のものは紀元前6世紀頃、のちに赤像式が生まれました。

ちなみに、酸化焼成とは窯の中に酸素がある状態で焼く方法、還元焼成は酸素がない状態で焼く方法です。焼き方によって、やきものは色が変わっていきますから、この言葉を覚えておいてくださいね。

◎中国の黒陶

中国で「黒陶」と呼ばれるものは、陶器ではなく「土器」が一般的です。ギリシャ陶器よりはるかに古く、新石器時代の紀元前2300年頃には焼かれていたようです。

◎中国の黒秞陶器

さて、ここで漸く、現代まで通じる、いわゆる黒の釉薬をかけた黒い陶器を登場させましょう。時代はぐっと下がって、4世紀頃の中国です。この頃には、中国各地で黒秞が見られるようになり、さらに陶の時代になると、艶やかで美しい黒い陶器が全国的に焼かれるようになりました。

中でも、中国古陶磁で代表的な黒秞として一番にあげたいのは、いわゆる日本で「天目茶碗」と呼ばれる黒秞茶碗ですね。例えば、曜変天目などは、黒地に星のように輝くように斑模様が浮かび上がった最上級の黒秞です。これらは南宋時代、中国福建省の建窯で焼かれたとされています。

そして、この建窯と双璧を成す(←筆者の個人的見解)のが、河南省の磁州窯でしょう。金〜元時代頃に焼かれた黒秞陶器は、大らかなフォルムの壺などにたっぷりと黒秞を施し、その後に花や草文などを掻き落としで描いた装飾性の高い陶器です。

他にも、定窯の黒秞は口に金彩などを施していたり、清時代の景徳鎮窯でも様々な意匠の黒秞陶器が作られています。

とにかく、中国では全国的に長い期間さまざまな黒秞が焼かれてきましたので、本稿では軽くご紹介するのが精一杯ですね。

次回は、陶器の黒のつづき。日本の黒をご紹介する予定です。
 

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(2019年初出、2023年加筆修正)