銘つれづれ
茶碗《無一物》

update:2019/11/01

はじめに…
本稿では無責任且つ個人的に主観を書いています。
 
第4回は《無一物》です。楽茶碗といえば、第一弾で《不二山》を取り上げましたが、やはり、楽茶碗といえば長次郎を取り上げないと、片手オチという感じですからね。。。
 
ではまず基本情報。
重要文化財・中興名物『赤楽茶碗 銘 無一物(むいちもつ)』は、樂家初代長次郎の代表作であり、天正年間に作られたと考えられている、桃山時代の陶磁・茶の湯の世界において、最も重要な作品の一つと言って良いでしょう。
伝来は、千利休や松平不昧公などが名を連ね、現在は兵庫の頴川美術館(※註)が所有しています。
 
…ちなみに、中興名物とは、江戸初期の大名茶人である小堀遠州によって選ばれた名品とされます。ざっくり言えば、利休以前から名品とされていたものは「大名物」、利休以後だと「名物」、遠州以後は「中興名物」という格付けみたいな感じです。
 
さて、無一物という銘についてですが、この茶碗の箱書きによるものです。
内箱の蓋に、江戸時代初期に活躍した裏千家四代の仙叟宗室(せんそうそうしつ)が箱書きをし、外箱の蓋には江戸時代後期に活躍した大名茶人の松平不昧(まつだいらふまい)が箱書きをしています。
 
…読み方は「むいちもつ」というのも要注意。かっこつけたつもりで読み方を間違えると恥ずかしいですからね。もちろんですが、箱書きにふりがなをふっているわけではありませんが、この言葉は「本来無一物(ほんらいむいちもつ)」という禅の言葉から来ています。
有名な言葉ですが、禅の思想を本稿で書くというのは、難しすぎますし、趣旨とも外れてしまいますので、とりあえず「事物はすべて本来空(くう)であるから、執着すべきものは何一つない」くらいに考えておいてください。
 
ではでは、この茶碗が「空」であって、執着すべきものではないという名を付けられた意味は???
 
正直言えば、ピンと来ないのです…筆者には。
触れれば壊れそうな緊張感と存在感を持った、美しい茶碗です。
でも、これが「空」で作られた茶碗なのかどうか、そこがピンと来ないのです。
むしろ「作為的」、つまり無作為(偶然に任せる)の産物というより、作者の意思を感じる存在感に思えるのですよ。そして、歴代の所有者はむしろ、執着を感じまくったんじゃないですかね。
ただし、手に取ったことがないので、分かりませんが、実際に使った人間にしてみると、この茶碗に「空」を感じさせられるのかもしれません。
 
…そう考えると、ロマンですよね。茶碗が手に取ってこそ分かる事もあるはずですから。
禅の思想をおいておくと、無一物という言葉から、他に同じものが一つとして作れないということなら、納得なんですよね。
 

定本 樂歴代―宗慶・尼焼・光悦・道樂・一元を含む

新品価格
¥3,080から
(2019/10/28 18:26時点)


 
 
(2023年加筆修正)
 
※註:私立であった頴川美術館は財団解散に伴い閉館し、所蔵品は兵庫県に移譲されました。その後、兵庫県立美術館西宮分館としてリニューアル開館しましたが、2023年3月に同館は美術館としては利用されないことになってしまいました。執筆時点で文化庁の「国指定文化財等データーベース」によると、保管施設は兵庫県立美術館、所有者は兵庫県になっています(2023年7月加筆)
 
追記。。。
「陶磁器名品」リストはこちらに掲載しています。