update:2020/02/25
はじめに…
本稿は無責任且つ個人的感想に基づくエッセイです。ただし、執筆時点において、歴史的、研究者的に主流と考えられている“事項”に関しては、参考文献や研究者からの伝聞を元に、記載しています。
第7回は《万声(ばんせい)》です。言わずと知れた国宝の名品、砧青磁の花生の最高峰ですね。
まずは、「砧青磁」って何?という人がいるかもしれないので、そこを簡単に押さえておきましょう。砧青磁(きぬたせいじ)とは、日本の茶人が名づけた青磁の一種。中国の龍泉窯で焼かれた粉青(半透明の澄んだ青緑色)の青磁の上手をそう呼びました。
さて、本題の《万声》の基本情報。
国宝『青磁鳳凰耳花生 銘 万声』
中国青磁の名品を数多く輩出し続けたことで有名な龍泉窯(りゅうせんよう)、しかも特に隆盛した南宋時代の一級品。室町時代にはすでに名品として名高く、江戸初期には徳川家が所蔵。その後、家光→東福門院(家康の孫で後水尾天皇の中宮)→後西天皇→公弁法親王(毘沙門堂門跡)と伝来し、久保家コレクションから現在の美術館へと至ったと考えられています。
http://www.ikm-art.jp/index.html
和泉市久保惣記念美術館HP → 当館について → コレクション紹介 でチェック。
https://bunka.nii.ac.jp/db/heritages/detail/197360
文化遺産オンラインからもチェック。文化庁が運営するサイトです。
実に美しく、存在感のある青磁です。現在まで、この形の「写し」が数多く作られていますが、この本物の美しさを上回ることは不可能ではないでしょうか。
たっぷりとかけられた青磁の釉薬が青緑に澄んで美しく、均整の取れたフォルムに丸みを持たせており、思わず触れたくなるような、しかしなから触れてはならぬような緊張感があって、ため息を持って眺めるしかありません。
ちなみに、「鳳凰耳」とは、花生の頸(くび)に付けられた、耳の様な飾りが鳳凰にかたどられているからです。
さて、この《万声》という銘ですがこれが後西天皇の「擣月千声又万声(とうげつせんせいまたばんせい)」の詩句から名づけられたと伝えられています。布を打つ砧(きぬた)の音が止むなく響く様子を「千声万声」と表現したことにちなんだということ。
…これはどの本にも書いてある「銘」の解説なのですが、ピンと来ますか? 残念ながら、この「The中国陶磁」を見た第一印象に、筆者はのどかな砧の音は聞こえませんでした。
ここで出てくる「砧」は器の形のこと。筒型の胴に長めの頸がついた形を「砧形」と呼びます。実際に布を打つ砧に似ている形ということで。また、この砧形は青磁の花生に多い形なので、そこから「砧青磁」という言葉が生まれたという説もあるほど。
で、その砧のような花入から、砧を打つ平和な光景が万年も続くことを連想し、願って、砧青磁の最高峰である本作に名付けたとしたら、まさにぴったりの銘だとも思えます。
ちなみに、同じく青磁鳳凰耳花生に《千声》もあります。こちらは陽明文庫(近衛家旧蔵)が所蔵しており、普段は見ることができませんが、同じく後西天皇から近衛家に伝来した、万声と並び称される名品であり、重要文化財です。
また、他にも青磁鳳凰耳花生はあります。五島美術館と大阪市立東洋陶磁美術館の青磁鳳凰耳花生です。いずれも重要文化財。
以上、国宝1点と重要文化財3点の青磁鳳凰耳花生。
ぜひ、全部見て、比べてみてください。
中古価格 |
(2023年加筆修正)