陶磁器の色いろ
アースカラー編:土色

update:2023/07/14

陶磁器の「色」の最後は、「土」という自然の色を取り上げたいと思います。
 
これまでは、赤だったり、黒、白、青のような「色」は、作り手たちの試行錯誤の成果だったりしますが、「土」色は、素材の色そのものですので、これまでの色に対するアプローチとは違うと思います。
 
現在、陶芸の土というと、ほとんどが白土、赤土、黒土だと思います。あとは、焼き方で、薪の灰がとけてできた「自然釉」の色や、薪の灰が焼き付いて色がついたりしますが、それは焼き方の技法になってきますので、ここでは土を焼いた肌色のみに焦点を当てます。
 
と前書きはともかく、土そのものの色を表面に出したやきもの(つまり、釉薬なしの焼締)と、その特徴的な色を挙げていきましょう
 
◎信楽焼の緋色
 
信楽焼を代表する色といえば「緋色(火色)」でしょう。白っぽい信楽の素地には鉄分が含まれており、酸化することで赤く発色します。窯焚きの仕方、例えばどこの位置に炎を当てるか、温度や湿度によっても色は変わってきますので、白っぽい部分と緋色の部分が一つの素地の中で見せる景色が魅力です。
 
◎青備前・黒備前・白備前
 
釉薬を使わない備前焼ですが、色が豊富なことでも知られています。素地の色だけでも黒・青・白。
青備前は鉄分の多い備前の土に還元焼成(酸素をなくして焼く)して、青灰色になったもの。さらに焼成中に塩を使ってさらに青くする技法もありますがこれは塩釉とも言えますね。
 
黒備前は古備前の作例が少ないものの、現在の陶芸家たちが再現しており、今ではたくさん黒い備前をみることができます。もともとは、表面に塗られた鉄分を多く含んだ泥土によって黒を発色させます(いわゆる化粧とも言えますが、あまり呼ばれない)が、近年の作品には成形した土そのものを黒っぽく焼き上げたりと、いろいろな黒備前があるようです。
 
白備前は、鉄分の少ない土を焼き締めて白くしたもの。江戸時代の一時期に焼かれましたが、現在ではあまり作られておらず、また前述以外にも、釉薬や化粧などで白くしたものがあったりといろいろで、よく分かっていません。「幻の備前焼」と呼ばれる所以です。
 
◎常滑焼の朱泥と黒燻
 
常滑焼といえば、朱泥の急須が代表的でしょう。土に含まれている鉄分が酸化焼成による朱く発色したものです。近年では、その土にさらにベンガラ(酸化鉄)を練り込んでいるものもあって、鮮やかな朱になっています。
一方の黒燻急須は、朱泥をさらに燻し(還元焼成)、表面の鉄分を黒くしたものです。
 
◎萬古焼の紫泥
 
萬古急須といえば、紫泥ですね。鮮やかな紫ではなく、紫褐色という感じ。還元焼成によって土に含まれる鉄分を黒くさせ、その後に空気に触れさせて冷却させると、紫を帯びた褐色になるのです。
 
ちなみに、中国・宜興の急須も紫泥と言われていますが、こちらは日本の萬古の土とは成分に大きな違いがあり、焼き方もシンプルな酸化焼成で紫系になります。土が鉄分に加え、亜鉛や銅などがたくさん含まれているから(鉄→赤、亜鉛→緑、銅→青)です。
 
◎珠洲焼の灰黒
 
珠洲焼は、しっとりとした灰黒色が特徴的です。瓦に近い感じですね。鉄分を含む土を高温で「還元焔燻べ焼き」という技法で焼くと、鉄分と炭素が結合して素地が炭化し、灰黒色になります。
 
 
さて、ここまで駆け足で紹介しましたが、いずれにしても、「鉄分」が要。含まれている鉄分の量、焼く温度、そして酸素を入れるか入れないか……。日本のやきものの多様性・奥深さをよく見せてくれるのが、土の色を生かす焼締かもしれませんね。
 

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では、長くなりましたが、「陶磁器の色いろ」はひとまず連載終了です。