update:2019/10/11
はじめに…
本稿では無責任且つ個人的に主観を書いています。
第3回は《馬蝗絆》です。前2回が国焼の茶碗でしが、こんどは唐物。
なぜコレを選んだかと言えば、歴史ファンの筆者にとって、この馬蝗絆(ばこうはん)という響きに、いつも心浮き立つものを感じるからです。
ではまず基本情報。
重要文化財・大名物『青磁茶碗 銘 馬蝗絆(ばこうはん)』は、中国・南宋〜元時代の龍泉窯で焼かれたと考えられる「砧青磁の唐物茶碗の随一」として知られる名碗です。
…ちなみに、大名物(おおめいぶつ)とは、茶の湯の道具の「名物」のうち、千利休時代にはすでに名品として名高く、名物のなかでも上位に位置づけられているもののこと。また砧青磁(きぬたせいじ)とは、龍泉窯青磁のうち、南宋時代のもので粉青色の最上手のもの。唐物(からもの)は、中国大陸から渡来したものです。
伝来には、平清盛の嫡男であった平重盛、室町幕府第8代将軍足利義政(銀閣を作った人物)、室町三井家などが名を連ね、現在は東京国立博物館に収蔵されています。
残念ながら常設はしていませんが、名高い名品ですので、比較的展示される機会も多いので、機会を逃さず足を運んでいただければと思います。
さて、馬蝗絆という銘についてですが、江戸時代の儒学者伊藤東涯が記した『馬蝗絆茶甌記』によると、足利義政が茶碗にヒビがはいってしまったため、代わりを求めて中国に送ったところ、明時代の中国には代わるものがなく、ひび割れた部分を鉄の鎹(かすがい)で止めて送り返して来たと書かれています。
茶碗をひっくり返して見ると、高台から腰にかけて、黒々とした鎹が、ホッチキスのようにバチバチと止めてある感じ。一見すると、優美な青磁茶碗になんとも不釣り合いと思うのですが、それの風情を「馬に止まった蝗(いなご)」に見立て、馬蝗絆となったというから、当時の茶人の感性の豊かさ、あるいは“意地”“粋”に、驚かされます。
しかしながら、この鎹に、なんとも中国らしい大陸の風をなんだか感じてしまう部分もあります。日本人が繊細にも金で継ぐのとは大違いです。
そして、いまとなっては、これが金継ぎされた茶碗であったら、他の名碗の中の一つに埋もれてしまったであろうと思うと、なかなか感慨深いですね。
この茶碗を初めてみたとき、この鎹に「残念さ」を感じてしまうのは、素直な感覚ではないかと思います。しかし、この馬蝗絆という銘を知り、改めて眺めてみると、送り返されてきたときの義政の顔を想像したりして、なんだか楽しくなってしまうのです。
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(2023年加筆修正)
追記。。。
「陶磁器名品」リストはこちらに掲載しています。