銘つれづれ 〜《玉兎》

update:2019/12/06

はじめに…
本稿は無責任且つ個人的感想に基づくエッセイです。ただし、執筆時点において、歴史的、研究者的に主流と考えられている“事項”に関しては、参考文献や研究者からの伝聞を元に、記載しています。
 
第5回は《玉兎》です。唐物、和物と紹介しましたから、次はやはり高麗茶碗というわけで。
 
この《玉兎》は前回までの4碗にくらべて、若干知られていない?
高麗茶碗なら、もっともっと有名な大井戸がいくらでもあるだろう。。。と言われそうですね。
でも、有名な井戸って、意外と持主の名前そのまま銘になっているのも多いんですよね。「戦国時代」って感じで、とにかく「所有欲」が感じられなくもない。。。《喜左衛門井戸》とか《有楽井戸》《毛利井戸》とか。
 
しかしながら、本稿は「銘」についてアレコレ書くのが目的ですから、由来よりも、面白い銘に心惹かれるというか、ロマンを感じてしまう筆者なのです。
 
では、茶碗の基本情報。
『小井戸茶碗 銘 玉兎』。石川県立美術館が所蔵しています。一般的に「たまうさぎ」と呼びますが、月に住んでいる兎をさすなら「ぎょくと」と呼びますね。
 
この「玉兎(ぎょくと)」というモチーフは、景徳鎮の青花あるいは伊万里の染付ではメジャーな文様の一つ。ただし、飛び跳ねている兎が描かれているのが基本です。
 
しかし、この井戸には兎はいません。大らかな井戸らしい枇杷色の胴に、口まわりに青白い波状のあるのみ。
 
実は、月の兎は、もともとは中国大陸から渡ってきた伝承ですが、日本では「波に兎」の文様へと変化していきます。
能の演目に『竹生島』というのがあるのですが、「月海上に浮かんでは 兎も波を奔るか 面白の島の景色や」という一節に由来するとも。
 
改めて井戸茶碗の玉兎を見てみましょう。
そう、口周りに見える波のような釉薬の後。
この波に、兎が跳びはねている様子が見えるようだ。。。というわけですね。
 
なんて豊かな想像力!
実際、小振りでなんだか可愛らしいフォルムと色合いです。兎っぽい感じ。
井戸茶碗には大きな高台や梅花皮(かいらぎ)、大降りなどで、攻撃的なくらい存在感のあるものも多く、大井戸の《喜左衛門井戸》なんて、例え波が見えても「兎」という銘にはならなかった思います。その点、この茶碗は兎にふさわしい感じです。
 
ちなみに、この茶碗の内箱の蓋は、兎が描かれていますよ。
 
石川県立美術館のHPから、「所蔵品のご案内」で写真が見られますので、チェックしてみてください。
 
http://www.ishibi.pref.ishikawa.jp/
HP → 所蔵品のご案内 → 小井戸茶碗 銘 玉兎 で検索
 
ぜひ。