窯見聞録
近現代(2)

update:2018/11/02

窯の話も近現代まで来ました。まずは、文明開化の話からです。
近現代の作り手たちの「窯」の具体例を挙げていきましょう。

例えば、ある陶芸家が桃山時代の備前焼を目指すとします。それを目指すために本格的にやろうとすれば、当時の状況に近い窯や材料を選択するのは一つの手段でしょう。しかし、もし現代的な、あるいは自分の個性を表現するための備前焼を目指すとしたら? 現代的な窯や材料の方が自分らしいと思えば、それも本格なのです。

もちろん、備前焼を見れば、薪とガスや電気の焼きでは、見た目にも結構違いがあります。備前焼は釉薬(ゆうやく;うわぐすり)をかけず、炎や薪の灰が直接あたるように窯の中で焼かれます。他の燃料では灰は人工的に入れないと発生しません。でも、その違いは善し悪しではありません。

もう一つ例をあげましょう。志野焼です。志野は桃山時代に美濃(岐阜)で一時期のみ焼かれました。それを研究し、復興させたのが昭和の人間国宝・荒川豊藏です。豊藏の窯は豊藏記念館に現在も残っていますが(一般見学は不可)、志野の窯跡があった場所に築かれた登窯。美濃のもぐさ土で成形し、長石を原料にした釉薬をたっぷりかけて、独特の白にほんのりとした緋色で色づいた志野を焼きました。

しかし、現在の志野焼の人間国宝はあえてガス窯で志野を焼くことで有名です。つまり、桃山の志野とも、豊藏のとも別の「志野」を目指しているからなのでしょう。

同じような話はまだまだたくさんあります。色絵でも、白磁・青磁、信楽焼でも・・・。過去から現在までのさまざまな技術を選び、次へとつなげていくことが現代陶芸の多様性であり、楽しさでもあります。

各地で、さまざまな陶芸家の話を聞くにあたって、どんな窯を使っているか、そしてその理由は、と伺うのは必須項目です。それをご本人が言う言わないはさておき、明確な理由を持っていることは確かです。灯油窯を使っている人が、電気に変えたら、釉薬の調合にしても、焼く時間や温度にしても、全てを変えなければならないでしょう。理由がなければ出来ないことです。

さあ、窯の話もひとまず終結です。
古きも新しきも陶磁器を見るとき、窯焚きを想像してみてください。ロマンを感じませんか?

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(2011年初出、転載・加筆修正、2023年加筆修正)